岡山県・阿哲台・牛追い小屋の穴

山域/洞窟名●阿哲台・牛追い小屋の穴(洞口約240m)
難易度●★★(★5つの2)
形状等●横穴/石灰岩/長さ約1080m/水流有
日程●2008年12月14日

 岡山県新見市にある、牛追い小屋の穴という鍾乳洞でケイビング(洞窟探検のこと)をしてきました。メンバーはIさん、Hさん、Tさん、Kくん、Yさんと僕の6名。

 観光鍾乳洞・井倉洞の駐車場で倉敷から来たYさんと合流し、少々迷いながらも何とか目的の洞窟のある、岩中集落に到着。近くにいた地元の人に話を聞くと、日曜日にはバスは来ないのでバス停に駐車可とのこと。さらに洞窟の地主の家を教えていただき、ご挨拶の後、徒歩で洞窟へ。

 しかし目標の牛追い小屋の穴は、岩中集落の下を流れる沢沿いにあるのですが、降り立った地点が上流すぎて、洞口に行くまでに滝の髙巻きをしたりして、けっこう時間を食う羽目に。目印となる左岸の水穴からも、小さいながらも釜があり、濡れたくないとの一心で苦労してしまい、洞口に着いた時は既に午後になっていました。

 思いの他広い洞口で身支度を整え、2時間経ったら引き返すことを確認し、Kくんを先頭にいよいよ洞内へ。初めは広くて立って歩けるくらいでしたが、やがて洞床に深く水が流れるようになり、またいだり右や左をへつったりして進んでいきます。

 そして最初の狭隘部。僕の前を行くTさんが、ためらいつつも何とか通過。しかし先頭を進むKくんから、
 「この先はかなり狭いです。足から行かないと危ないですよ。」
と声がかかってきました。Tさんは残念ながらそこで断念、一人洞口に戻って待機することとなりました。ケイビングは本当に狭い鍾乳石の間を、無理やりすりぬけて行くような場面も多いため、Tさんのような大柄な方には、少々不利かなと思いました。

 さて自分がその狭隘部に入ると…確かに狭い。一旦頭から突っ込んで少し奥まで進み、そこから下に延びる穴に下半身を突っ込んで、無理やりずるずると向こう側に這い出しました。何だか狭いところを通過する、体で解くパズル、といった感じです。

 出たところでホッと一息ついていると、冷静なYさんから、
「何か目印を置いておきましょう」
と声をかけられました。なるほど、ここはあまりにも狭すぎるので、帰りに穴を見落としてしまうかもしれません。自分のカラビナを目立ちやすい場所に置いて、地形をよく観察してから先を進む皆の後を追いました。

 狭いながらも這うほどでもない箇所を通過していくと、先頭を行くKくんやHさんのうめき声が。天井が極端に低くなり、軍隊でやるような匍匐前進で進まないと先に行けないのですが、床には水が溜まっているのです。ここまでできるだけ濡れないようにと気を使ってきたのですが、とうとう前進水浸しとなる場所が現れたのでした。さらに僕は、そこを通過する際に一番水の深い部分でヘルメットを天井にぶつけたため、おもむろに顔を水に突っ込んでしまい、泥水を一口飲み込んでしまったのでした。あ~不味かった。

 さて、さらに洞内を進むと、急な段差を一段降りなければ先に進めなくなりました。よく見ると段差の手前のチョックストーンの下に隙間が出来ていたため、小柄なHさんがそこから下に降りてみることに。しかしHさんでもかなり苦労して、やっとの思いで通過できた感じなので、残りのメンバーは無理をせず、チョックストーンに長いスリングをかけて、ゴボウでクライムダウンすることにしました。

 そこから広い空間を少し進むと、穴は奥の方の少し高い位置に続いているのが見えました。そこを登って進もうかとも思ったのですが、Kくんが段差登りをエスケープできるラインを発見したので、皆でそちらに続くことに。そして再度の匍匐前進で水溜りを通過すると、洞内は右へ左へとグネグネ屈曲するようになってきました。ここら辺も迷いやすい場所ではあるのでしょうが、先人たちの残した目印(ビニールひもやプラスチックのマーカー、さらにはなぜかトランプまで)も多く、比較的安心して進むことができました。

 やがて先頭を進むKくんから、
「もう行き止まりです。ここいら辺まででしょう」
との言葉が発せられました。

 メンバー5人が、一旦その行き止まり地点の前に集合、予定の2時間の期限も迫っていることだし、ここで引き返すことにしました。ところでその場所で試しに全員のヘッドランプを消してみると…本当に真っ暗、目の前にかざした手も全く見えない、本当の真っ暗闇だったのでした。

 さてここからは今来たルートを外さないように気をつけて出口まで戻ることになります。ところがふと足元の穴に入り込んだKくんが、さらにその先にも穴が続いていることを確認。この鍾乳洞は本当に奥が深いようです。けれども寺坂さんが待っていること、皆それなりに体力を消耗していることなどから、そちらの通過は次の機会ということにして、やはり引き返すこととなりました。

 しかしここからがけっこう大変で、進む時には目に入らなかった枝穴が四方八方に広がり、迷う部分もしばしば現れました。一時は本当に解らなくなって、ぜんぜん違う方向に進んでしまいそうになったりもしました。
 それでも今回は5人いるということで、それぞれが微妙に記憶をつなぎ合せ、行ったり来たりを繰り返しつつ、何とか往路を見つけて出口と思われる方向へ向かうことができました。問題の極端に狭い狭隘部も、残置しておいたカラビナに助けられ、帰路となる狭い通路を無事に発見することができました。

 そこを潜り抜けると、洞内は広くなって歩けるようになってきました。すると間もなく前方に光が現れて、待望の洞口へと抜け出ることができたのでした。
 ところが、Tさんがいない…多分ここでは寒いので、耐え切れずに車に引き返したのでしょう。そう考えて、我々も近くの水穴から流れ出る水で顔を洗った後、急いで車に向かいました。そして日没近く、やっと寺坂さんの待つ車に戻り、泥だらけになったお互いを見て笑いあったのでした。

 今回のケイビングは、Iさんが以前ケイビングをした経験があること、楽しかったのでまた行きたいとのことを聞いて計画しました。僕も関東在住時には一時、随分とケイビングに熱を入れていた時期があり、新見市周辺の鍾乳洞はぜひ訪ねてみたいと思っていたのでした。さらにKくんという、早稲田大学探検部でかなり本格的にケイビングを実践してきた仲間も加わり、安心して今回の洞窟に臨むことができたのでした。

(岳人集団 岳獅会 会報『岳獅』より)