蒜山高原 下蒜山~中蒜山~上蒜山
中国地方屈指の縦走路を歩く
遥か昔、大山の噴火によって川がせき止められ、湖が広がっていたという蒜山高原。当時の痕跡は今ではわずかに残るばかりであり、放牧されるジャージー牛が遊び、観光施設が点在する、西日本の軽井沢と称されるリゾート地となっている。
その蒜山高原の背後に、大きく、清々しい3つの山が連なっているが、これが蒜山三座である。最高峰は一番西の上蒜山で、標高は1202m。けっして高いとは言えないがその姿は美しく、登山道が整備されて多くの登山者を迎えている。特に三座を結ぶものは爽快感溢れて明るく、中国地方屈指の縦走路といえるだろう。
私が初めてこのコースを歩いたのは梅雨真っ盛りの6月のこと。可愛らしいササユリの花を見つけたり、はち合わせしたタヌキにびっくりしたりとそれなりに楽しい山行ではあったが、湿っぽくてブヨも多く、あんまり快適とはいえなかった。
次に訪れたのは秋も終わりに近づいた頃。澄み渡った青空の下、笹原の緑に映える色とりどりの紅葉の見事さに心踊り、このような素晴らしい稜線を歩けることに喜びを感じた。以降、この蒜山三座縦走は私のお気に入りコースの一つに加わった。
縦走のスタートは、犬挟峠という面白い名前(由来は諸説あり判然としない)を持つ峠にある、下蒜山登山口から。小さな湿原から樹林に入り、黒ぼこと呼ばれる滑りやすい土の道をひと頑張りすれば、五合目付近で明るく開けた道を進むようになる。そして尾根の傾斜が緩むと雲居平。蒜山高原を望む最高の展望台だ。
ちなみにこの雲居平の別名は乙女平。昭和37年の岡山国体に際しこの山を訪れた武田久吉氏が、あまりの美しさに感動し名付けたのだとか。
その先で道は傾斜を増し、慎重に登れば九合目でなだらかになって、間もなく下蒜山の頂上に着く。北西側には気高い姿の大山を望むことができるだろう。
下蒜山を過ぎると道は高度を下げ、フングリ乢の名前を持つ樹林の中のコルに出る。フングリとは睾丸のことであり、大昔に巨人がここをまたぎ越そうとして、フングリをひっかけたという言い伝えが残っている。
登り返して塩釜冷泉からの道を合わせると、前方に避難小屋が現れる。縦走路は小屋前を右に折れるが、直進すると中蒜山の頂上。ここも蒜山高原と大山の眺望に優れ、休憩する登山者たちでいつも賑わうところだ。
戻って縦走路を進むと、ユートピアと呼ばれる笹原。続けて樹林に覆われる尾根を登れば、上蒜山の頂上に到着する。残念ながらこの頂上は、木立に遮られて展望はない。
この先の稜線にもかつては縦走路が続いていたそうだが、今では少し進んだ三角点より先は、深いヤブに覆われているので、頂上からは上蒜山スキー場へと延びる尾根を下る。
樹林の中を進むと、いつしか木立はまばらとなり、周囲はススキに包まれるようになる。それらススキの穂が逆光に輝く昼下がりの頃は、まるで夢の国を歩く心地だ。
やがて登山道は一気に高度を下げ、植林帯を抜けて牧場へと続く。可愛らしい牛たちを眺めつつ農道を歩くと、上蒜山スキー場の駐車場。さらに進めば蒜山高原のバス停に着く。
DATA
日帰り、または前日泊日帰り
アクセス◎JR姫新線中国勝山駅からバス1時間15分で蒜山高原。そこからタクシー約30分、3,400円程度で犬挟峠。マイカーの場合は米子自動車道蒜山ICから国道482号~伯耆街道を経て犬挟峠へ。車10台分程度の駐車スペースがある。
参考タイム◎犬挟峠(1時間40分)下蒜山(1時間50分)中蒜山(1時間)上蒜山(1時間50分)上蒜山スキー場(20分)蒜山高原
2万5千図◎蒜山
問い合わせ◎真庭市コミュニティバス(真庭市市民課)●0867-42-1112、ヒルウン交通(タクシー)●0867-66-5570
登山力◎特別な登山技術はいらない。
アドバイス◎逆コースも可だが、秋の時期は下蒜山から登って上蒜山から下山するほうが景観が美しい。また中蒜山から塩釜冷泉への登山道は、エスケープルートとして利用できる。
※山行日は2008年11月、2009年10月~11月の複数回、DATA等は2011年9月時点のものであり、現在は状況が大きく変わっています。出向く際には、必ず最新情報を事前にご確認ください。